ステンレス鋼製の深溝玉軸受と、同寸法のクロム軸受鋼製軸受を並べても、データシート上の違いはほとんどありません。内径、外径、幅、基本静定格荷重は同じで、回転速度も落ちません。大きく変わるカタログ値は1つだけです。
その列が基本動定格荷重で、寸法によって16〜23%低下します。定格寿命はその値の3乗に比例するため、この差は無視できません。技術者が判断に迷いやすい点には公表済みの答えがありますが、ほとんど引用されていません。軌道輪に使われている鋼種は何か、実際の温度上限は何度か、ステンレス化で回転速度は落ちるのか、ステンレス軸受でもどこがさびるのか。本記事では、メーカーのカタログと鋼種を規定する規格に基づいて一つずつ検証します。まず呼び番号の構成を確認したい場合は、軸受番号の読み方をご覧ください。
要点
- 「440C軸受」には通常3種類のステンレス鋼が使われています。 SKFのステンレス鋼深溝玉軸受は、軌道輪がX65Cr13、玉がX105CrMo17(AISI 440C)、保持器とシールドがオーステナイト系304に相当するX5CrNi18-10です。
- ステンレス化で大きく変わるのは、基本動定格荷重Cだけです。 同一外形寸法の開放形同士を比較すると、Cは16.4%、20.9%、22.8%低下します。一方、C₀の低下は0%、1.9%、7.4%、疲労荷重限度Pᵤの低下は0%、0%、6.3%です。
- ステンレス化で速度は落ちません。速度を落とすのはシールです。 開放形
W 6000と開放形6000は、ともに基準回転速度67 000 r/min、限界回転速度40 000 r/minです。内径40 mmでは、ステンレス品が12 000 r/min、クロム軸受鋼品が11 000 r/minで、むしろステンレス品の方が高い値です。どちらも接触シールを付けると5 600 r/minになります。- 鋼種を議論する前に、定格低下を寿命へ換算します。 L₁₀は(C/P)³に比例するため、Cが16.4〜22.8%低下すると、同じ負荷での定格寿命は42〜54%短くなります。
- 焼入れした440Cは、ステンレス鋼の中では耐食性が低い部類です。 焼入れ時に多量の炭素がクロムを炭化物として固定し、不動態皮膜に使える固溶クロムが減るためです。SchaefflerはX105CrMo17を「耐食性と転がり疲れ耐性の妥協」と説明しています。
- 300 °Cではなく120 °Cです。 SKFは、ステンレス鋼深溝玉軸受が少なくとも120 °C(250 °F)まで寸法安定性を保つとしています。300 °C以上という温度は鋼材の性質を示すもので、軸受の定格ではありません。
- 規格は2023年に改訂され、このトレードオフを解消する鋼種が追加されました。 ISO 683-17:2023は2023年9月22日発行の第4版で、改訂時に高窒素マルテンサイト系鋼種X30CrMoN15-1が追加されています。
ステンレス鋼軸受は何でできているのか?
多くの場合、3種類のステンレス鋼です。軌道輪にはマルテンサイト系鋼、玉にはさらに硬いマルテンサイト系鋼、保持器とシールドにはオーステナイト系鋼を使います。それぞれ別の性質を担い、製品全体の呼び名に使われる鋼種はそのうち一つにすぎません。
SKFは材料の内訳を明記しています。軌道輪はISO 683-17に準拠したX65Cr13、玉はX105CrMo17、シールドと保持器はEN 10088-1に準拠したX5CrNi18-10です(SKF)。X105CrMo17はAISI 440Cとして流通する鋼種で、X5CrNi18-10はAISI 304に相当します。つまり、多くの商品情報で「440C軸受」と呼ばれる製品は、玉が440C、軌道輪が低炭素のマルテンサイト系鋼、保持器がオーステナイト系304という構成です。
材料を使い分けるのは、3つの部品に求められる性質が異なるためです。転がり接触部には硬さが、接触しない部分には耐食性と成形性が求められます。標準的な密封形ステンレス軸受の保持器はプレス製ステンレス鋼で、リボン形、リベット形、スナップ形があり、いずれも玉案内です。射出成形したガラス繊維強化ポリアミド66製も受注対応できます(SKF)。保持器材料による温度上限の違いは、軸受保持器の材料をご覧ください。
この使い分けは購買仕様に直結します。「ステンレス、440C」とだけ記載した見積依頼で指定されているのは玉だけです。軌道輪の鋼種、保持器の鋼種と形式、シールドまたはシールの材料、グリースは未指定のままで、買い手が重視する性能はそれぞれによって変わります。
マルテンサイト系、オーステナイト系、そしてトレードオフを解消する鋼種
マルテンサイト系鋼は転がり接触に必要な硬さまで焼入れできますが、オーステナイト系鋼はできません。この違いを押さえれば、316が耐食材料としては優れながら軌道面材料には向かない理由と、二者択一を避けるために第3の鋼種群が存在する理由が分かります。
| 鋼種 | 系統 | 軸受で使う部位 |
|---|---|---|
| X65Cr13 | マルテンサイト系 | 軌道輪。440Cより組織が微細で、静粛性に優れる |
| X105CrMo17 / AISI 440C | マルテンサイト系 | 玉、および一部寸法の軌道輪。一般的な鋼種群で最も硬い |
| AISI 420 | マルテンサイト系 | 低炭素、低硬度、低コスト。一般用途 |
| X5CrNi18-10 / AISI 304 | オーステナイト系 | 保持器、シールド、ハウジング。軌道面には使わない |
| AISI 316および316L | オーステナイト系 | 塩化物環境。軌道面に使うのは軽荷重設計のみ |
| X30CrMoN15-1 | 高窒素マルテンサイト系 | 耐食性と負荷能力の両方が制約となる軌道輪・玉 |
軌道輪材については説明が必要です。一見すると440Cからの格下げに見えますが、実際はそうではありません。GRWによると、小形・ミニチュア軸受メーカーは1980年代末に軌道輪材を440Cから変更しました。理由は化学組成ではなく組織です。440Cの耐食性は「より粗い結晶粒組織と著しく大きな炭化物との引き換え」であり、小形軸受では騒音を増やします。X65Cr13の微細な組織は「440C鋼の耐食性と52100クロム軸受鋼の低騒音性を兼ね備える」とされています(GRW、玉軸受用ステンレス鋼SV30、販売代理店掲載の複製)。つまり、この軌道輪材は静粛性を考慮した選択です。
このトレードオフを左右するのは、母相に固溶しているクロムの量です。焼入れしたマルテンサイト系鋼では、炭素がクロム炭化物として析出します。そのクロムは母相に固溶せず、不動態皮膜の形成にも使えません。Schaefflerも、焼入れ状態で耐食性を得るには「組織中の固溶クロム比率を高くする」必要があると説明しています。その上でX105CrMo17を「耐食性と転がり疲れ耐性の妥協」であり、「現在の要求を満たせない場面が増えている」鋼種と位置付けています(Schaeffler)。
炭素の一部を窒素に置き換えれば、固溶クロムを減らさずに鋼を硬化できます。これがX30CrMoN15-1の設計思想です。組成は約15% Cr、1% Mo、0.15〜0.35% C、0.20〜0.40% Nで、炭素と窒素の合計を0.60〜0.80%に調整し、最低58 HRCを確保します(Hucklenbroichほか、1999)。金属組織上の利点は、炭化物が微細なことです。この鋼種の炭化物はAISI 440Cより著しく小さくなります。転がり接触疲労下では、440Cの大きな炭化物が広範囲に連結したき裂を生じさせるのに対し、高窒素鋼ではき裂が分岐します(Rejithほか、2024)。
この鋼種が現在は規格に収載されている点も重要です。ISO 683-17:2023は2023年9月22日発行の第4版で、ステンレス軸受鋼を含む5群の軸受鋼について技術的受渡条件を規定しています。第4版は2014年版を廃止・置換し、変更点の一つとしてX30CrMoN15-1を追加しました。つまり、「どのステンレス鋼が軸受鋼なのか」は仕入先の好みではなく、規格で確認できます。
寸法によって標準材料も変わります。ミニチュア寸法では鋼材使用量が少なく、価格差がほぼなくなるため、ステンレス仕様は例外ではなく一般的な選択です。ミニチュア軸受では、この点と、ミニチュアステンレス品を示すS、SR、SMRの接頭記号を解説しています。クロム軸受鋼、ステンレス鋼、セラミックハイブリッドの3者比較は、玉軸受は何に使われるかをご覧ください。
明確にしておきたい点が一つあります。オーステナイト系鋼製の軸受は軽荷重用です。316製軌道輪を指定する設計では、焼入れできない軌道面を採用することになり、荷重、回転速度、寿命はその仕様専用のカタログ値に基づいて判断しなければなりません。重工業では、接触応力より腐食が支配的となる湿潤箇所で316が選ばれます。圧延機用軸受材料では、圧延設備におけるこの事例を解説しています。
ステンレス化で実際に失うもの
大きく変わるのは1項目だけです。同じ外形寸法でステンレス仕様にすると基本動定格荷重が低下し、基本静定格荷重、疲労荷重限度、回転速度定格は変わらないか、わずかに向上します。
SKF自身も一般論として、ステンレス鋼深溝玉軸受は「同じ寸法の高クロム鋼製軸受より負荷能力が低い」と明記しています(SKF)。しかし一般的な比較記事では、その差の大きさが示されていません。以下はSKFの表から、開放形同士で同一外形寸法の3組を比較したものです。
| 外形寸法 | クロム軸受鋼 | ステンレス鋼 | ΔC | ΔC₀ | ΔPᵤ | Δ限界回転速度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 10 × 26 × 8 mm | 6000:C 4.75 kN、C₀ 1.96 kN、Pᵤ 0.083 kN、40 000 r/min | W 6000:C 3.97 kN、C₀ 1.96 kN、Pᵤ 0.083 kN、40 000 r/min | −16.4% | 0% | 0% | 0% |
| 25 × 52 × 15 mm | 6205:C 14.8 kN、C₀ 7.8 kN、Pᵤ 0.335 kN、18 000 r/min | W 6205:C 11.7 kN、C₀ 7.65 kN、Pᵤ 0.335 kN、19 000 r/min | −20.9% | −1.9% | 0% | +5.6% |
| 40 × 80 × 18 mm | 6208:C 32.5 kN、C₀ 19 kN、Pᵤ 0.8 kN、11 000 r/min | W 6208:C 25.1 kN、C₀ 17.6 kN、Pᵤ 0.75 kN、12 000 r/min | −22.8% | −7.4% | −6.3% | +9.1% |
クロム軸受鋼の数値はSKFの現行製品ページ、ステンレス鋼の数値はSKFステンレス鋼カタログ(2015年11月)による。回転速度は開放形の限界回転速度。差分は公表された2つの数値から算出。
この表には、脚注ではなく本文で示すべき注意点が2つあります。第一に、上記のクロム軸受鋼製品はすべてSKF Explorer性能クラスで、材料とは別にCを高めています。したがって、Cの差の一部は鋼種ではなく性能クラスによるものです。第二に、両者は発行時期が15年離れ、カタログ改訂も異なる資料からの数値です。この2点はいずれもC列の解釈に影響します。一方、C₀、Pᵤ、回転速度定格には影響しないため、こちらの3項目の比較はより確実です。
なぜ低下するのはCで、C₀ではないのか
2つの定格は算定根拠が異なるためです。ISO 76の基本静定格荷重は、最も荷重を受ける転動体と軌道面の接触部に規定の接触応力が生じる荷重であり、形状によって決まります。同一形状なら同じ値となり、ステンレス鋼軸受も形状は同じです。ISO 281の基本動定格荷重には、形状に加えて材料品質と製造品質を表す係数が含まれ、鋼種の変更はこの係数に影響します。
ただし、この説明だけではきれいに収まらない点もあり、無理に単純化すべきではありません。材料品質だけが理由なら、疲労荷重限度PᵤもCとともに低下すると考えられます。しかし内径10 mmと25 mmではまったく変わりません。低下するのは40 mmだけで、その幅も動定格より小さくなっています。上記の機構は影響の方向を示すものであり、すべてを説明するものではありません。
Cが23%低下すると定格寿命はどう変わるか
およそ半分になります。ISO 281では玉軸受の基本定格寿命をL₁₀ =(C/P)³で求めるため、Cが0.772〜0.836倍になると、定格寿命は0.46〜0.58倍になります。つまり、同じ負荷ではステンレス品の定格寿命が42〜54%短くなります。逆に寿命を一定に保つなら、負荷も同じ16〜23%だけ下げる必要があります。
ステンレス化の判断を決めるのは、鋼種表ではなくこの計算です。軽荷重箇所なら、もともと数十年に相当する寿命が50%短くなっても実用上の問題はなく、耐食性を得るための寿命上の代償は実質ありません。定格近くで使う箇所では、同じ低下が設計余裕をすべて奪います。どの条件でどちらの定格を使うかは、動定格荷重と静定格荷重で解説しています。
ステンレス鋼軸受はクロム軸受鋼製より低速なのか?
いいえ。SKFの表では、開放形ステンレス品は同等寸法のクロム軸受鋼製品と同じか、それ以上の回転速度です。速度上限を実際に半減させる部品は接触シールです。
前述の開放形3組を比べると、内径10 mmでは両方とも40 000 r/minです。25 mmではステンレス品が19 000 r/min、クロム軸受鋼品が18 000 r/min、40 mmではそれぞれ12 000 r/minと11 000 r/minです。大きい2組では基準回転速度も同じ傾向で、ステンレス品は30 000および20 000 r/min、クロム軸受鋼品は28 000および18 000 r/minです(SKFのステンレス鋼カタログと、SKFの6205・6208製品ページを比較)。このデータでは、ステンレス品は遅いどころか、わずかに高速です。
一方、密封形式の影響は、同じカタログの同じ呼び番号系列内で明確に確認できます。開放形W 6208の限界回転速度は12 000 r/minです。シールド形W 6208-2Zでは10 000、接触シール形W 6208-2RS1では5 600まで下がります。クロム軸受鋼製6208-2RS1も5 600です(SKF)。材料にかかわらず、同じ密封形式なら上限も同じです。
これは、多くの鋼種比較で最も誤解されている点です。440Cが304や316よりはるかに高速だとする比較表は、同一部品ではなく製品系列を比べており、外形寸法や密封形式もほとんど明記していません。両条件を揃えれば、鋼種による速度差は見えなくなります。回転速度が制約なら、検討すべき仕様は密封形式です。シール形軸受とシールド形軸受では、これを独立した仕様項目として解説しています。
ステンレス鋼軸受でもどこがさびるのか?
シールドやはめあい面、塩化物にさらされる箇所です。ステンレス鋼は腐食を防ぐ材料ではなく、腐食しにくい材料です。ステンレス軸受の寿命を左右する腐食は、軌道面以外から始まることも少なくありません。
まずは鋼種自体の耐食性です。焼入れによってクロムが炭化物として消費されるため、焼入れしたX105CrMo17では、不動態皮膜に使える固溶クロムが、焼なまし状態のマルテンサイト系鋼やオーステナイト系鋼より少なくなります。このため、塩化物環境では316より早く孔食が起こります。一般的な星取表形式の比較では、440Cを品質面で最上位、耐食性でも316にわずかに劣る程度とすることが多いものの、塩水環境での差を過小評価しています。
実測データは、誰がどの条件で試験したかと併せて読む必要があります。Schaefflerは、Cronitect表面層が塩水噴霧試験で約900時間に達したと報告しています。これは「Cronidur30よりわずかに低い」だけで、「AISI440Cや薄膜高密度クロムめっきを施した転がり軸受鋼より著しく高い」値です。同じ論文では、乾燥運転時の軌道面摩耗が100Cr6の約12分の1、混合摩擦下・信頼度90%での定格寿命がAISI 440Cまたは100Cr6製軸受の9倍とされています(Schaeffler)。いずれも、明示された条件下でのメーカー試験結果であり、一般的な定格値として扱うべきではありません。
次に、軌道輪以外の部品です。密封形ステンレス軸受のシールドと保持器はオーステナイト系304で、指定がなければシールはニトリルゴムです。軸、ハウジング、締結部品の材料は機械側の仕様によります。ステンレス軸受を炭素鋼製ハウジングへ圧入しても、微小動きがあれば、はめあい面にフレッチングコロージョンが生じます。これはどの軌道輪材でも防げません。ISO 15243:2017では5.3.3.2に分類され、5.3.2の水分腐食とは区別されています。軸受の損傷モードでは、返却品で両者を見分ける方法を解説しています。
軌道輪を構造部材の一部として組み込む場合は、もう一つ注意が必要です。ESA規格に基づく応力腐食割れ試験では、AISI 440Cが耐えたのは0.2%耐力の約20%までで、Cronidur X30は50〜75%でした。それでもECSS-Q-70-36Cでは、両鋼種とも低耐性のクラス3に格付けされています(Merstallingerほか、2023)。引張応力を受ける焼入れステンレス鋼軌道輪は、圧縮応力下と同じようには評価できません。
対策をコスト順に並べると、まず密封仕様と排水、次に不動態化処理、グリース選定、高窒素鋼、セラミック玉を用いたハイブリッド、最後にコーティングです。コストの高い対策ほど後順位になります。洗浄ラインではハウジングも同じ選定に含まれます。フランジ軸受の材料では、ステンレス製または複合材製ハウジングがコストに見合う条件を解説しています。
ステンレス鋼軸受は何度まで使えるのか?
約120 °Cです。上限を決めるのは鋼材の焼戻し特性ではなく、軌道輪の寸法安定化処理、シール材料、グリースです。SKFは、ステンレス鋼深溝玉軸受が「少なくとも120 °C(250 °F)まで寸法安定性を保つ」としています(SKF)。
ステンレス軸受について300 °Cや350 °Cという温度が広く流布していますが、これは見解の違いではなく、評価対象の取り違えです。その温度は鋼材が耐えられる範囲です。カタログ値は、寸法安定化処理され、シールとグリースを備えた完成軸受が寸法を維持できる範囲です。仕様には後者を使います。同じ誤解はハイブリッドセラミック軸受の800 °Cという主張にもあり、セラミック軸受で詳しく解説しています。
温度と適合規制の両方に関わるのがグリースです。標準の密封形ステンレス軸受にはLHT23が封入されています。エステル系基油を用いたリチウム石けんグリースで、NLGIちょう度は2〜3、基油動粘度は40 °Cで27 mm²/s、100 °Cで5.1 mm²/sです。食品用の代替品VT378は、PAO系基油を用いたアルミニウムコンプレックス石けんグリースで、NLGIちょう度は2、基油動粘度は40 °Cで150 mm²/s、100 °Cで15.5 mm²/s、使用温度範囲は−25〜+120 °Cです。
Food Line仕様VP311は、破片が食品に混入した場合に光学的に検出できる青色ニトリルシールと、NSFカテゴリーH1登録潤滑剤を組み合わせています。FDA承認は、水性食品および脂肪性食品と繰り返し接触するゴム製品を対象とする21 CFR 177.2600への適合です。EC承認は、ドイツBfR勧告XXIのカテゴリー3材料に対する総移行量要件への適合です(SKF)。
この適合仕様には、カタログに明記されているものの見落とされがちな性能上の代償があります。SKFのVT378グリース寿命計算では、基準グリースMT33から求めた結果に20%を乗じるよう指示されています(SKF)。密封形ステンレス軸受は軸受寿命中のメンテナンスが不要とされているため、実質的にはグリース寿命が軸受寿命を決めます。食品用グリースの選択は適合性だけでなく、再潤滑の可否を含む寿命設計にも関わります。この一般的な関係は軸受潤滑で解説しています。
適用規格と現行版
クロム軸受鋼製品と同じ規格です。そのため、ステンレス軸受は標準品と寸法互換性を持ちます。ただし、その根拠となるカタログは1990年代から2000年代の版を引用しています。
SKFのステンレス鋼カタログは、4項目すべてを明記しています。メートル系列の主要寸法は、WBB1接頭記号またはX補助記号が付く軸受を除き、ISO 15に準拠します。インチ系列はANSI/AFBMA Std 12.2に準拠します。すべてのステンレス鋼深溝玉軸受は、標準でISO 492のNormal級に相当する公差で製造されます。ラジアル内部すきまは、内径10 mm未満を除き、ISO 5753のNormal級です。販売代理店がこの公差等級をP0と表記することがありますが、これは同じ等級体系に対するDIN 620の記号であり、ISOの呼称ではありません。ISO 492:2023の呼称はNormal、6X、6、5、4、2です。ステンレス系列の軸径範囲は0.6〜50 mmです。カタログ最小品W 618/0.6は、内径0.6 mm、外径2.5 mm、幅1 mm、C 34 N、C₀ 7 N、質量20 mgです。
カタログが引用する版は、ISO 683-17:2000、ISO 15-1998、ISO 492-2002、ISO 5753-1991、EN 10088-1:1995、ANSI/AFBMA Std 12.2-1992です。このうち3規格は後継版に置き換えられ、現行版は第4版のISO 683-17:2023、第4版のISO 15:2017、第6版のISO 492:2023です。ラジアル内部すきまはISO 5753:1991からISO 5753-1:2009へ移行し、同規格が現在の発行版で、第2版を開発中です。カタログの参照規格は発行当時にメーカーが採用していた版として読み、仕様書へ記載する前に版を確認してください。
実務上の要点は呼び番号です。SKFのステンレス仕様は補助記号ではなく接頭記号で表します。メートル系列はW、インチ系列はD/W、ISO寸法系列に準拠しないステンレス製メートル系列はWBB1です(SKF)。後続の補助記号が密封形式と適合仕様を表します。2Zと2ZSはシールド、2RS1は接触シール、2TSはPTFEシール、Rは外輪フランジです。Xは主要寸法のうち1つが規格から外れること、BB1は2つ以上が外れることを示します。VT378は食品用グリース、VP311はFood Line仕様です。
このうちWBB1接頭記号とX補助記号は、単純な寸法照合では互換品を選べないことを示します。いずれも外形寸法がISO寸法ではないため、標準寸法を前提にクロスリファレンスすると、取付けできない品番を選ぶおそれがあります。ブランド間の軸受クロスリファレンスでも、この2つを要注意記号として扱っています。
小形軸受ならミスアライメントに寛容だと思われがちですが、許容値は意外に厳しく、内外輪間の許容傾き角は運転すきま、寸法、内部設計、作用荷重に応じて2〜10′(角分)です(SKF)。ミスアライメントがあれば、騒音が増え、寿命が短くなります。
ステンレス軸受の見積依頼に記載すべき項目
| 指定項目 | 重要な理由 |
|---|---|
| 軌道輪の鋼種 | 硬さ、耐食性、騒音を決める。「440C」だけでは玉しか指定できない |
| 玉の鋼種 | 軸受中で最も硬い部品。軌道輪材にかかわらず通常はX105CrMo17 |
| 保持器の材料と形式 | プレス製ステンレス鋼か成形ポリアミドか。選択によって運転温度上限が決まる(保持器材料) |
| シールドまたはシールの形式・材料 | 限界回転速度を決め、洗浄環境への耐性を左右する |
| グリースと承認 | 食品接触がある場合のNSF H1、FDA、EC適合、およびグリース寿命を決める |
| 公差等級 | 指定がなければNormal。販売代理店が使うP付き記号はDIN 620であり、ISO呼称ではない(公差等級) |
| ラジアル内部すきま等級 | 指定がなければNormal。はめあいと運転温度によって変化する(内部すきま) |
| 不動態化処理 | 研削後に不動態皮膜を回復させる独立した仕上げ工程であり、鋼種指定には含まれない |
| 磁気要件 | マルテンサイト系鋼は磁性を持ち、オーステナイト系鋼は基本的に非磁性。必要なら明記する |
ステンレス鋼軸受の許容アキシアル荷重
設計上は同等寸法のクロム軸受鋼製品と同じですが、純アキシアル荷重では0.25 C₀を超えてはなりません。SKFはこの両方を公表しており、一般指針と照らし合わせると矛盾して見える記述の意味が分かります。
ステンレス鋼カタログには、これらの軸受が「標準SKF深溝玉軸受と同じアキシアル負荷能力を持つ」とあります。一方、純アキシアル荷重では「一般に0.25 C₀を超えないこと」とし、過大なアキシアル荷重は寿命を短くするとしています。SKFの一般的な深溝玉軸受指針では、標準単列軸受の上限は0.5 C₀です。ただし、内径12 mm以下、直径系列8、9、0、1、ステンレス鋼軸受の3区分は、その半分に制限されます(SKF)。
2つの記述を併せて読むと、意味が明確になります。ステンレス品は、アキシアル負荷能力そのものが低いわけではありません。同じ基本静定格荷重C₀に対して、より厳しい上限比率が適用されます。これは小形・軽系列の上限を決めるのと同じ機構です。大きな純アキシアル荷重では接触楕円が軌道溝の肩部へ乗り上げるため、静的過負荷ではなく形状が制約になります。アキシアル荷重とラジアル荷重では、軸受形式別に上限を計算しています。
軽荷重のステンレス軸受では、最小荷重も忘れてはなりません。必要な最小ラジアル荷重は、最小荷重係数、運転温度での潤滑剤粘度、回転速度、軸受平均径から見積もります。低温始動時や高粘度潤滑剤の使用時には、さらに大きな荷重が必要です。純アキシアル配置では、内外輪の位置を調整するか、ばねを用いて予圧を与えます。
ステンレス鋼が不適切な条件
荷重、塩化物、温度のいずれかが支配的な場合です。耐食性は複数ある設計要素の一つにすぎません。鋼種だけを先に決めると、材料仕様は満たしていても早期損傷する軸受になります。
荷重が支配的な場合。 鋼種比較の前に寿命を計算します。定格近くで使う箇所で、耐食性と引き換えに定格寿命の42〜54%を失うのは得策ではありません。クロム軸受鋼製軸受の密封仕様、排水、潤滑剤を改善する方が、水分へ直接対処できます。
塩化物が支配的な場合。 焼入れ440Cは塩水用途に適しません。検討順は、高窒素鋼、セラミック玉を用いたハイブリッド、コーティング、フルセラミックです。どれを選ぶかは、材料単体の耐食性ランキングではなく、荷重、回転速度、媒体によって決まります。高窒素鋼の優位性にも適用範囲があります。従来の高炭素軸受鋼をL₁₀のわずか5〜10%で損傷させる白色組織き裂について、X30CrMoN15-1では発生報告がありません(Yu、Li、Herbig、2019)。
温度が支配的な場合。 約120 °Cを超えると、鋼材より先に寸法安定化処理、シール、グリースが使用限界を決めます。まず温度要件で仕様を絞り、残った選択肢に耐食性を加味します。
磁気要件がある場合。 マルテンサイト系鋼は磁性を持ち、オーステナイト系鋼は基本的に非磁性です。そのため、医用画像装置、センサ、計器用途ではオーステナイト系軌道輪が必須となり、軽荷重設計を選ばざるを得ない場合があります。316を軌道面に使うことが誤りではなく、意図した選択となるのはこの条件です。磁石を使えば、保管中の部品がどちらの系統かを確実に確認できます。
図面でステンレス軸受を指定する場合は、腐食源、荷重条件、回転速度、温度範囲、食品接触または磁気要件をお知らせください。お問い合わせページから技術チームへご連絡いただくか、深溝玉軸受の製品系列からご検討ください。入荷ロットが注文どおりの鋼種と公差を満たすかの検証は別の管理項目であり、海外からの軸受調達で解説しています。
よくある質問
ステンレス鋼軸受は何でできていますか?
通常は3種類の鋼種です。SKFのステンレス鋼深溝玉軸受では、軌道輪がX65Cr13、玉がX105CrMo17(AISI 440C)、保持器とシールドがオーステナイト系304に相当するX5CrNi18-10です。商品情報に記載される鋼種は、通常、玉の鋼種です。
軸受には440Cと316のどちらが適していますか?
荷重を受ける軌道面には、転がり接触に必要な硬さまで焼入れできる440Cが適しています。316は焼入れできません。塩化物に対する耐食性は316が優れます。両方が必要なら、どちらか一方ではなく、X30CrMoN15-1などの高窒素マルテンサイト系鋼が選択肢です。
ステンレス鋼軸受は定格荷重が低いのですか?
基本動定格荷重は低くなります。同一外形寸法3組の比較では、SKFの開放形ステンレス品はクロム軸受鋼製品より16.4%、20.9%、22.8%低い値です。基本静定格荷重と疲労荷重限度はほとんど変わらず、最小寸法の組ではまったく変わりません。
ステンレス鋼軸受はクロム軸受鋼製より低速ですか?
いいえ。同じ寸法の開放形同士では、ステンレス品の回転速度定格はクロム軸受鋼製と同じか、わずかに高い値です。限界回転速度をおよそ半分にするのは接触シールで、両材料に同じように作用します。
ステンレス鋼軸受もさびますか?
はい。焼入れしたマルテンサイト系鋼は、クロムが炭化物として消費されるため塩化物環境で孔食を起こします。また、ステンレス鋼であっても軸やハウジングのはめあい面で生じるフレッチングコロージョンは防げません。
ステンレス鋼軸受は何度まで使えますか?
SKFは、ステンレス鋼深溝玉軸受が少なくとも120 °Cまで寸法安定性を保つとしています。300 °C以上という値は鋼材が耐えられる温度であり、組み立てられ、グリースを封入した軸受の温度定格ではありません。
ステンレス鋼軸受は磁性を持ちますか?
440CやX65Cr13などのマルテンサイト系鋼は磁性を持ちます。304や316などのオーステナイト系鋼は基本的に非磁性です。磁石を使えば、保管中の部品がどちらの系統かを確実に判別できます。
要約
- ステンレス軸受には通常3種類のステンレス鋼が使われ、商品情報に示される鋼種は多くの場合、玉の鋼種です。
- ステンレス化で大きく変わるカタログ項目は実質1つだけです。Cは16〜23%低下し、その差は寸法が大きいほど広がります。
- 同じ負荷では定格寿命が42〜54%短くなり、寿命を一定にするなら許容負荷も同じ割合だけ下がります。
- 基本静定格荷重、疲労荷重限度、回転速度定格は維持されます。速度を決めるのは鋼材ではなく密封形式です。
- 温度上限は約120 °Cで、食品用グリースを選ぶとグリース寿命は80%短くなります。
- 焼入れによってステンレス鋼の耐食性は低下します。そのため高窒素鋼が開発され、ISO 683-17にも2023年に追加されました。
腐食源、荷重、回転速度、温度、適合規制の要件を技術チームへお送りください。定格低下も実使用条件に換算し、用途に合う仕様を選定します。
著者について
Jeff LiはANDE Bearingで、軸受工学とグローバル調達に関する記事を執筆しています。自動車、重工業、再生可能エネルギー分野のOEMおよびアフターマーケットの購買担当者と直接連携しています。LinkedInでも情報を発信しています。



